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俺はトラックだった。
IS○ZUのマークを正面につけて、配送業者の仕事に就いているご主人の金髪ヤンキー美少女を乗せて全国各地を走り回るトラックだった。
ご主人は俺にブラックタイガーという甲殻類みたいな名前をつけて大事にしてくれていた。
俺はそんな彼女と過ごす日々をとても幸せに思っていた。
だが幸せは長くは続かなかった。ご主人と俺は交通事故を起こしてしまったのだ。
それはとある日の午後だった。
俺たちはいつも通り法定速度を遵守して安全運転で道路を走っていたのだが、何をとち狂ったのか歩行者用の信号が赤にも関わらず馬鹿な男子高校生がいきなり前に飛び出してきたのである。
ご主人は慌ててブレーキをかけてハンドルを切ったものの、車体である俺は軌道の制御が利かなくなって電信柱に激突。
衝突した部分のエンジンは破損し、ガソリンが漏れ出て俺の鋼の身体は煙に包まれた。
ご主人は頭を強く打ったのか意識が朦朧としていて発火を起こし始めた俺の中から出ようとしない。
このままではまずい。ご主人が火あぶりか一酸化炭素中毒で死んでしまう。
そう思った俺は業界の掟を破ることにした。自らの意志でドアを開き、ご主人の身体を火の手が回らないところまで弾き飛ばしたのである。
これやったら無機物業界のお偉いさん方に怒られるんだけど、まあ別にいいよな。どうせ俺は廃車確定で死ぬ運命だし。
アスファルトの地面を跳ねて投げ出されるご主人。すまんな、痛いだろう。怪我をさせてしまったな。だけど、死なせたくはなかったんだ。
事故を聞きつけた野次馬が周囲に集まってくる。気を失ったご主人の周りにも介抱しようと人が寄ってきた。これでひとまずは安心だ――
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