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跳ね飛ばした輩どもの亡骸を森の奥へ放り捨てて街道の清掃を済ませた俺は当初の予定通りニッサンの町へ向かうことにした。
結局、奴隷商がどのような手段を用いてエルフが現れる日取りを把握していたのかは不明なまま。
どこの商人が輩どもに指示を出していたのかも聞き出せなかった。唯一の手掛かりは取り引きが町で行われるということだけ。
だが、取り引きのために対象の奴隷商はニッサンの町に潜伏しているのは確実だ。
町に着いたら聞き込みをして、奴隷商についての情報を探るとしよう。幸いにも俺の次に出立するのは早くても二か月後のシルフィが最短である。その間に解決の糸口が掴めなければ出立の日に迎えに行って安全を確保してやればいい。
この事態は下手をすればエルフと人との全面戦争に発展する可能性がある。
もちろんそんなことにならないようには努めたいが……。その辺の問題は里の大人たちと合流してから考えよう。
兎にも角にも、一年は里に戻れないのだ。
俺は俺にできる最低限を地道にやって、これ以上の被害者を出さないことに善処するほかない。
できれば一年を待たずに一人でも多く、早く助けてやれればそれがベストなんだが。
―――――
砂埃を上げて風を切って、元の世界だったら間違いなく切符を切られているスピードで俺は街道を駆け抜けていく。
広く見通しのいい街道を対向車や前の車を気にせずに突っ走る。
速度制限度外視のドライブは元の世界の常識がいい具合で背徳感を引き起こして格別なスリルと快楽をもたらしてくれた。
途中で追い抜かした馬車の御者が見せた驚きの表情は堪らなく愉快だった。
仲間がとんでもない目にあっているかもしれないのに俺の走り屋としての性はこんな時でも疼いてしまう。
エルフになっても根っこの本能は未だに無機物なトラックのままのようだ。
仲間たちがどうでもいいとは思っていないが、走っているとその楽しさのほうに心が行ってしまう。
もうトラックをやっていた年数よりエルフをやっているのにな……。いつまでも感情が車寄りなのはトラックの要素を残して転生させてもらった弊害だろうか。
姿かたちだけ取り繕われても、俺の本質は里の家族や友人たちとは似て非なるものなのかもしれない。
自分は親しい者たちとは違う。そう考えると少しだけ疎外感を覚えて寂しい気もした。
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