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「君はこんなところで何をしているのだよ?」
あまり実践してこなかった下半身のトレーニングに取り掛かろうとしたとき、後ろから突然声をかけられた。
振り向くと、そこにはピンクブロンドの少女が立っていた。
癖が強いのか、彼女の髪はそこまで長くないのに激しくうねって鳥の巣のようになっていた。
瓶底の眼鏡をかけ、サイズの合っていないダボダボしたローブを身に着けている。
うわ、袖の長さが余りまくって手が隠れてるじゃねえか……。
これは格好に関しては触れちゃいけない感じだな。
「ああ、来週の魔法実技で発表する内容を考えていたんだ」
俺が言うと、少女は訝しそうに眼鏡をくいっと上下させた。
「見たところ、身体を鍛えていたようにしか見えなかったのだよ?」
「それが俺の発表することだからな」
「……身体を鍛えることと、魔法がどう関係するというのだよ?」
「筋肉を万遍なく鍛えることで身体全体の代謝が促進され、同時に魔力の総量と魔法の出力を相対的に上昇させることが可能になる……そんな新発見の理論だ!」
なんとなく頭の中にまとめていた、なんちゃって理論を自信ありげに語る。
どうだっ? 信じたかコノヤロー!
とりあえずこの子で試してみよう。
「どうだ? 驚いたか?」
わくわくしながら訊いてみる。だが、少女の様子がどこかおかしい。
「なんとッ……! なるほど……そうか……! 筋肉か……! そっちのアプローチは考えたことがなかった! だがそうすれば……」
……え? なんかめっちゃブツブツ早口で言ってるんだけど、この子。やだ怖い。
「――ッ!?」
それは一瞬だった。
「君がとっている魔法実技は何曜日の何限目なのだよ!?」
まるで反応ができないほどの速度で彼女は俺に詰め寄ってきて、そう訊いてきた。
背がちっちゃいから胸のあたりで見上げるような感じなのに鼻息が顔に当たるすさまじさ。
どれだけ興奮してんだよ。
「え、えーと確か、火の曜日? とかの二時限目だったかな……」
「そうか……火の曜日の二時限目か! ううん、その理論! ぜひ楽しみに聞かせて頂こう……なのだよ?」
俺の回答を引き出すと彼女は満足そうに笑って俺の肩を叩き、すぐそばに建つ塔のなかに入り去って行った。
なんだったんだ……。
塔? なんか覚えがあるような?
うーん、思い出せないし気のせいか。
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