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才媛ラルキエリ、と彼女は言った。
才媛って、どっかで聞いたことあるよなぁ。
「ラルは自分の研究室がある塔の前で面白そうなことをやってたグレンに話しかけたって言ってたよ?」
塔の前? それなら覚えがあるぞ。
「……その才媛ってのはピンクの髪で眼鏡をかけていたりするか?」
「うん、そう! なんだ、やっぱ知ってるじゃない!」
間違いないな。
俺の筋トレ理論を面白いと言って興奮してた変な少女のことだ。
エルーシャと彼女は知り合いだったのか。意外な接点だ。
しかし、あのやり取りでたくさん喋ったと認識されてたとは……。
あんなの一方的にブツブツ話してきただけじゃねえか。
どういう感覚してるんだ?
まあいい。とりあえず用があると言うなら会ってみよう。
どの交友関係が奴隷商人の情報に繋がるかわからないし、消極的な態度は避けていかねば。
学園の敷地内を歩いて塔に向かう。
なぜかリュキアもついてきて、エルーシャと仲良く手を繋いで隣を歩いている。
メイドさんはお留守番。
洗濯とか、いろいろ仕事があって忙しいみたいだ。
いつもすまんな。ありがとう。休日とか作ってあげたほうがいいのかな。
「いやぁ、久しぶりに学校に帰ってきたらグレンっちがここに入学してるって聞いてさ。すごく驚いちゃった!」
エルーシャが明るい調子で話しかけてくる。
だが、彼女は特別機嫌がいいわけではないのだろう。
エルーシャは素でこれだけ元気があるのだ。
若干、会話が一方通行な感じもしないではないが、息が詰まりそうなこの学園では貴重な性格をした人間だと思う。
「なんかいろいろやったんだよね? 神童と一緒に寵児を馬鹿にしたり、ゼブルス先生の授業で深淵の森の一部を消失させたり――」
寵児ってやつのことは覚えがないな……。きっと何かの勘違いだろう。
ゼブルスは魔法実技の教師か?
教師の名前は薄毛とか脂ぎったとかで認識してるから覚えてねえや。
ちなみにどれも髪の毛にちなんでいるのは偶然で、他意はない。
つか、木を数十本へし折っただけで消失とは大げさな。
きっと情報とはこうやって歪められて伝わっていくものなのだろう。
そして――
とことこ歩き、俺たちは才媛ラルキエリの待つ塔に到着した。
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