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先行き不安な空気が漂いつつあったその時――
「みんなぁ! 今日まで頑張って来たじゃない! 戦う前から怖気づいてどうするの!」
真っ先に声を上げたのは女教師だった。
「うまくやろうと思うから緊張するんだよぉ! 今まで耐えた悔しい気持ちを堂々とぶつけていいところだと思えばいいんだよぉ!?」
生徒たちを鼓舞する声は以前のグダグダしたものとは違う。
トレーニングの邪魔ということで短く髪を切り、化粧も薄くなり、香水の匂いもすっかりしなくなった女教師。
密度の高い筋トレを繰り返し、身も心も研ぎ澄まされた彼女はほんの少しだけパリッとした感じの雰囲気を会得していた。
「な、なるほど。これは高慢な貴族を合法的にブッ飛ばしてやれるチャンスなんだ……!」
「そう考えたら食欲沸いてきた! ハフッハフッ! モッチャモッチャッ!」
「な、なによ! あ、あんたに言われなくてもやってやるんだから!」
女教師の発破で闘争心を取り戻した生徒たち。
どうやら萎縮からは解放されたようだな。
筋トレに参加していなかったら女教師の言葉は彼らに届かなかっただろう。
同じ経験を共有したからこそ生まれた一体感。
彼女の努力は少しずつ実を結んでいるんだと俺は思った。
『あいつら、ずっと魔力の通し方も覚えられなかったくせに寵児に挑むなんて馬鹿だよな』
『まあ、生意気な平民の公開処刑だと思えば楽しめるよな?』
『あの自分が偉いと勘違いしてる根暗女の理論がゴミ扱いされるところを早く見たいわね!』
ふむ……。
客席にいるやつらの大半は平民生徒たちが無様に負けるところを笑いに来ているらしい。
だが――
『本当に筋肉を鍛えるだけで平民が英才教育を受けてきた貴族に勝てるのか?』
『僕は才能がないから実家に見限られてしまったけど、努力で伸びる可能性があるなら……』
『この試合でもしも平民たちが勝つようなことがあれば私たちだって――』
筋トレ理論に僅かな期待を抱き、その真価を見極めに来た者たちも少なからずいる。
俺たちが勝利すれば努力をしたくても方法がわからなかった者たちにとっての希望になる。
ここが学園に一筋の光をもたらすかどうかの分水嶺だ。
絶対に負けられんな……。
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