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「あれ? 精霊たちよ、なぜだ!? ……は? なんだと? やつは女神様の……!?」
ラッセルが一人でなんか言っている。
精霊の声は俺に聞こえんのでラッセルが取り乱している理由は不明だ。
「そ、そんなになのか……? では彼は……だが、今は勝負中であってだね……」
何かしらのトラブルがあったことは間違いなさそうだが。
ふーむ……。
待っていてもラッセルは狼狽えているだけ。手を出してくる気配はまったくない。
これ以上は時間の無駄か。
「そっちがこないならこっちからいくぞ?」
「わっ、ちょっと! ま、待ってくれ! 少しだけ精霊と話す時間を――」
「問答無用!」
ウォーターバレット! ドバァ――ッ! ザバーンッ!
「う、うわああああああ――っ! ぴぎゃっ!」
俺のかなり手加減したウォーターバレットはラッセルをフィールド上から吹き飛ばし、そのままの勢いで観客席手前のフェンスに叩きつけた。
「馬鹿な……こ、この僕が――こ、これが女神様に選ばれた者の力……素晴らしい……」
フェンスにめり込んだラッセルは最後に何か呟き、ガクリと気絶した。
ちょっとあっさりすぎたか。もっと苦戦したほうが演出としてはよかったかも。
「俺の勝ちだよな?」
「えっ、あっ!」
茫然としていた審判に確認を取ると、慌てて俺の勝利を告げる。
それに合わせて俺は拳をぐっと掲げた。
会場は大いに盛り上が――
『…………』
『…………』
『…………』
客席は静まり返ったままだった。おい、ちゃんと勝ったんだが?
もっとこう、湧き立ったりしないの?
「うわぁ? すごいんだよぅ!?」
「いや、圧勝しすぎなのだよ?」
「あの寵児を一撃とは驚きなのですよ……!」
ラルキエリたちのほうを見ても無邪気に喜んでいるのは女教師だけだった。
おかしい……納得がいかん。何はともあれ。
こうして俺たちはラッセル一派に勝利した。
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