子爵家と民族競技

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◇◇◇◇◇ -テックアート家-  グレンに付けたメイドからの報告書を読みながら、テックアート家の当主、ディオス・テックアートは感嘆の声を漏らしていた。 「本人は肉体派だと言っていたが、やはり知性溢れるエルフ族だね……」 「お父様、どうされたのです?」 「ああ、レグルか。これを見てみなよ。どうやらグレン君が学園でとんでもないことを成し遂げたようだよ」 「グレン様が……ですか?」  ディオスから報告書を受け取ったレグルはそこに書かれている内容に目を通す。  すると、やはり父親であるディオスと同じく驚嘆した。 「これは……本当に驚きですね。エルーシャ様やラルキエリ様だけでなく、あのラッセル様まで篭絡してしまうとは……。短期間で学園の中心人物を揃って掌握するなんて――」  レグルはグレンに貴族を取り込むような駆け引きができるのか甚だ疑問だったが、彼につけたメイドからの報告にはハッキリとグレンの成果が書き綴られている。 「我々の前では刹那的な行動ばかりしているように見せかけて、腹の内では謀略知略を巡らせていたんだろうね。ここに書いてある経緯だけ見ると単調に見えるが、それだけで曲者と名高いこの面子の心を掴めるはずがない」   現場でグレンの振る舞いを見ていないディオス氏はエルフが持つ知的なイメージの補正によってメイドが記していない裏側でグレンが高度な駆け引きを行なったのだろうと深読みした。  実際は書かれた通りそのまんまの行き当たりばったりなのだが……。 「なるほど、グレン様には政治の才能まであったのですね……」  レグルはグレンが学園に行くと言ったとき、奔放な彼がプライドの高い貴族の子弟たちの神経を逆撫でしてトラブルを起こすのではないかと懸念していた。  だが、それはまったくの杞憂だったらしい。  むしろグレンは貴族の子弟たちをあっという間に懐柔して学園の中心に君臨してしまった。  レグルはグレンを見くびっていた自分の愚かさを恥ずかしく思った。  実際は行き当たりばったりの偶然なのに。 「ですが、潜入調査でここまで目立ってしまってよいのでしょうか?」「うーん。きっとグレン君にも考えがあるんだよ。そうでなければ全校生徒の前で決闘までやったりはしないだろう」 「それもそうですね……あのグレン様ですし、そういう派手なやり方で作戦があるのかもしれませんね」  ここでも発動するエルフ補正。  実際は行き当たりばったりのアレなのに。 「グレン様は同族の方々のために頑張っていらっしゃる。彼が手掛かりを掴んだとき、すぐさま力になれるようにしておかないと。そうすれば、わたくしだって――」  レグルは表情を引き締め、己の決意を強くするのだった。
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