ゴブリンと無双

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 女騎士も最初は外でやおら脱ぎ始めたのだが、令嬢に止められて今は馬車の中で令嬢とともに着替えている。 「……まあ、そのすまんな」 「魔法で死者を生き返らせることなんて不可能なのですから。グレンさんが謝ることなんて何もないじゃないですか」  一応、どんな高位の使い手でも死者の蘇生など夢のまた夢というのがこの世界の常識である。  だが、俺の回復魔法は初級レベルであれだけ治ったのだ。上級の回復魔法ならひょっとしたら生き返らせることもできたかもしれない。  俺の授かった才能だったらその常識を打ち破る効力を発揮できたのではないか。俺の言葉には怠惰だった自身への後悔も含まれていた。 「ダイアンが先陣をきってゴブリンの注意を引き付けなければグレンさんが来るまでもたせることもできませんでした。あいつは騎士として役目を果たして立派に散りました。悲しいことなんて何もありません」  ……実は最初のほうは様子見をしてましたなんて絶対に言えない。二重に後ろめたくなってきた。  俺の内心も知らず、デリックは俺が気負わないように柔らかく微笑むのだ。その笑顔は悲しみの心を押し殺しているのが丸わかりだった。  輩の時とは違い、俺はもう少し魔法についても真剣に取り組んでいればよかったかなと、僅かながらにそう思ったのだった。
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