832人が本棚に入れています
本棚に追加
「……兄ちゃんはエルフのくせになかなか力があるんだな」
平然と運んでいる俺の姿を見て、くすんだ金髪男は表情を若干引き攣らせてそう言った。
「まあ、そこそこ鍛えてるからな。これくらいなら運べるよ」
「エルフは非力な種族って聞いてたからてっきり受け取れずに落としちまうかと思ったんだがなぁ……」
高価な壺なのに受け止めきれない可能性がある相手にポンと渡してきたのか。危機管理意識が足りていないな。
保険で補償は降りても美術的価値のある作品は蘇らないのだぞ。
保険がこの社会にあるとは思えないが。
「まあ、落とさずに運んでくれればそれでいいさ。壊しちまったらとんでもない額の弁償をしないといけなくなっちまうからな」
「お、おう。そうなのか……」
男がいたテーブルの仲間たちがニヤニヤと遠巻きにこっちを見てきているのが少々気にかかる。
ああいう下種な笑い方をする連中は総じてロクなことを考えていないものだが……。
いや、疑ってかかるのはよくない。
笑い方が特殊なだけで新米の冒険者を微笑ましく思っているだけかもしれないじゃないか。
俺は壺の陰から顔を覗かせるようにして僅かな視界を確保しながら受付までよたよたと歩いていく。すると、
「ああ、よっこいしょ!」
テーブルで酒を飲んでいたスキンヘッド男がいきなり大声を上げて椅子を大きく引いて立ち上がった。
俺が足を出すタイミングとほぼ同時だったため、俺の足は椅子にぶつかる。
最初のコメントを投稿しよう!