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壺を丁重に床に置いてから俺は取り直して二人に訊いた。
恐らくこの壺も俺が落とさせて賠償をせしめるための小道具だったに違いない。
さっきのハゲもこいつらの回し者だろうな。
俺が視線を送るとスキンヘッドはビクッと背中を震わせた。
「そんなんはどうでもいいだろうが! お前は俺たちに金を払えばそれでいいんだよ!」
くすんだ金髪の……ルドルフ? とか言われていた男はテーブルをバンバンと叩いて威嚇しながら俺に要求を突き付けてきた。
ちなみにギャラリーは面倒ごとに巻き込まれたくないのかヒソヒソと囁く野次馬に徹して一向に介入してこない。
困っている他人を平気で見過ごす区分のきっちりした都会らしい処世術を誰もが心得ているようだった。
素晴らしいことだよ、まったくね。
「オラオラ、見ろよ。アンディの痛がりっぷりを! ひでえやつだ!」
ルドルフは声高く叫んでアピールし、事情を知らない冒険者たちに印象付けを行う。
「…………」
先手を打たれた俺は閉口する。
ここで取り乱したらルドルフの思惑通りだ。勝手にぶつかってきたのはそっちだろとか。お前らグルなんだろとか。
いろいろ言ってやりたいことはあるが、それを言い出したらきっとどちらも引っ込みがつかなくなる。
最悪の場合、取っ組み合いの喧嘩に発展しかねない。
昼間から町中でトマティーナ開催とか確実に逮捕案件である。
そうなったらまだ登録もしていないギルドを出入り禁止にされてしまう。
だが、こいつらだってギルドから仕事がもらえなくなるのは困るだろうし、本当にこの場でやり合う気はないと思う。
きっと連中は俺が駆け出しの田舎者エルフだから強気で押せば屈すると思ってハッタリをかましているのだ。
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