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「……要はそいつが怪我をしたのが問題ってことなんだろ?」
「そうだよ! だから治療費と慰謝料を払うんだよ、おら早く!」
俺は辟易しながら息を吐く。
こういう場合はどちらかが引いて鞘を納めなくてはならない。
社会では往々にしてこういう思考が理解できない民度の低い輩に遭遇することがある。
その際に試される折衝能力とは、言いなりにならず紳士的に譲ることだ。
紳士になり過ぎてもいけないし、かといって相手と同じレベルで御託を並べてごねても泥沼になるだけ。
だから俺は――
「断る!」
はっきりとそう宣言した。
「んだとぉ……!?」
ルドルフの不機嫌そうな声に呼応し、テーブルからやつの仲間が立ち上がってぞろぞろ詰め寄ってくる。
まずいな、とっとと済ませて場を納めないと。
「……ふんっ!」
俺は眼帯男の足に向けて回復魔法を放った。
「お、おおお?」
「なんだッ!?」
時間を巻き戻すように修復されていく男の足首。
呆気にとられながらチンピラどもは治癒の光景を見送っていた。
すっかり元通りになった足を見て、眼帯男はポカンと口を開けている。
「これでいいだろ。もうあんたの案内はいらないから壺はここに置いておくぞ」
「ぐぬぬ……」
彼は仲間が怪我をしたことに焦点を当てていると言った。なら怪我がなかったことになればもう手打ちにするしかない。
「くっ、エルフの回復魔法の力を侮っていた……!」
ルドルフはギリギリと歯噛みをして仲間の完治を悔しがる。
そこは喜んでやれよ。ひどいやつだ。
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