トラックと転生

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―――――  俺の有機物としての新しい命はとある森の奥にあるエルフの里の若夫婦の長男として始まった。  車だった俺には決められた性別などなかったのだが、一人称を『俺』と呼称していたことで女神様が男を選んだようだ。  関節があって皮膚がある。口があって喉があって、声が出る。呼吸をする。何もかもが初体験で不慣れな肉の身体に俺は最初こそ戸惑いを覚えたがすぐに順応した。  尿意や便意などの排泄欲も感覚こそ違うがマフラーからガスを排出するのと似たようなものだと解釈してからは特に気にならなくなった。 「ばぶー!」 「はいはい、グレンちゃん。お乳が欲しいのね」  俺の泣き声で母親がやってくる。  俺の新しい名前はグレン。  紅蓮のように赤い髪をしていることからそう名付けられた。両親も赤髪なんだけど、そこらへんはどうなんだ。  赤毛が生まれるたびにそれにちなんだ名前をつけていたら数世代後にはネタ切れするぞ。  ひょっとしたらもうネタ切れしていて先祖に同じ名前が三人くらいいてもおかしくない。 「はい。たっぷりお飲みなさいね」  俺は母エルフから差し出された柔らかい乳房に手を当てて母乳を吸い出す。  母エルフの乳房は小さいながらもご主人のシートに触れた尻の感触よりも柔軟だった。まあ、こっちは完全に脂肪の塊だから当然と言えば当然か。  凹凸の少ない、ほっそりとした体つきの美人エルフな母親。  エルフは基本的に余計な肉はつかない種族らしく、彼女が別段貧相な体形というわけではないらしい。  年齢も見た目は二十代そこらだが、人間と同じように老けるわけではないのでこれでも結構な年を召しているのだとか。  ちなみにこれらは両親の会話に聞き耳を立てて仕入れた情報である。  母乳を飲み、排尿し、時にうんこを漏らしながら俺の哺乳類ライフは順調に開幕した。  エルフを哺乳類と表現するのが的確なのかは専門家でないので知ったことではない。
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