領主と奴隷

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「ええと、俺は――」  …………!?  よく見ると御令嬢陣営の視線が俺に一斉に集まっていた。なんか無言ですごい見られていた。三人ともすごいこっちを見ていた。  誰しもが『なにやってんのこいつ……』という感じの目をしていた。  ……これ、明らかに正体ばれてるよね。言っていいのか迷っている雰囲気だもん。  そりゃフードでちょっと顔と耳が隠れたくらいならわかるよなぁ。  まったくもって、御令嬢たちへの対策を忘れていた。領主にエルフだとバレなければいいとだけ考えていたが迂闊だった。  なぜ御令嬢の名前を出さずにルドルフと一緒に来たのか。どうしてこんな時間まで訪れなかったのか。  向こうさんからすれば不審極まりない展開のオンパレードである。  グレン、愚かなり。やってしまった。どうしよう。 「初めまして! 僕はルドルフ君のお友達のブラックタイガーといいます!」  何も聞き出せていないまま領主に正体を知られるわけにはいかない。  誤魔化すため俺は咄嗟にトラック時代の旧名を名乗った。屈辱を堪えてルドルフの友人であると詐称した。  彼女が領主とグルでなければ乗ってくれるはずだ。俺が種族と素性をこの場で公開されたくない事情があるのだと。  グルじゃなくても悟ってくれなかったらアウトだけど。 「えっ、ルドルフさんの……? そうですか……。ならば初めましてですね。ブラックタイガー様」  御令嬢は俺の意図を読み取って茶番に付き合ってくれた。ほっと一安心。見た目に相当する聡明な頭脳だ。  ルドルフとの関係について驚いていたようなので後に訂正を入れないといけないな。俺の沽券にかかわることだ。
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