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俺の名前は小牧(こまき)秀樹(ひでき)、貿易商社に勤務して、営業マンとしてこの国の支店勤務となって、あと半年で四年目に突入する。まったく外国でのビジネスは難しい。習慣、倫理、商売の意識、すべて日本とは違う。
《生き馬の目を抜く》のはどこの国でも同じだが、俺が担当している国は油断ができない。うっかりすると、すぐコピー商品が出回り、たとえ契約書を交わしても役人の都合で白紙撤回されてしまう。根本的に資本主義がわかっていないのだ。
会社の支店長は現地人でないと営業の許可が下りないし、取引先の建物がいくら大きくても信用は禁物。なぜなら一晩で看板が掛け替えられて、ある日突然、雲隠れなんてザラだし、社長が偽名の名刺を渡すのは日常茶飯事で、酒に酔わせて不利な契約書を突きつけるのは常套手段と考えなければいけない。
それどころか身内の社員でさえ信用できない。雇い入れた社員が、倉庫からゴッソリ在庫を盗むなんて事件もあるくらいだ。
だいたい、この国の連中は民度が低く、親戚同士の横のつながりを大切にするから、人件費が安いからと工場を移設して職人の仕事を教えても、少しも採算ラインが確立できない。連中は技術の腕が上達すると、すぐ工場を辞めて、親戚が経営する工場に戻ってコピー商品を拡散してしまう。
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