プロローグ

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 しかし相手の顔色をうかがうばかりで外務省は《事なかれ主義》から、なかなか脱却しない。  だからなめられて、民間企業はヤバい仕事に協力させられたあげく、利益といったら雀の涙――  (もう、やっていられない)というのが民間企業の本音だろう。  それどころか、反日政策のおかげで売り上げはダウン。暴動でも起きれば、毎度おなじみの日本の会社への略奪に器物破損が始まる。それも秘密警察がグルになって、国民を先導しているんだから処置なしだ。  まったく、あの国のリーダーは自分のエゴだけで息してやがる。  《経済発展》を旗印に外国資本を呼び込んでいる頃は《えびす顔》だったのに、手にした外貨で軍備拡張ばかり続けるんだから、国内外の雰囲気はどんどん悪くなっていく。  派手に軍事パレードを始めたり、国連の警告を無視して核ミサイル開発を進めたり。もう近隣諸国と天然資源が眠る領地や領海をめぐって、ツバ迫り合いが始まっている。  戦争が始まるんじゃないかという予測もあり、もしそうなれば日本だって無傷ではいられないだろう。  それを考えれば胃袋が痛む。  本社の指示は大使館に従えだが、役人の仕事が早かったためしがない。そのくせトラブルが起きれば逃げ足だけは早いのだ。  (ああ、日本を離れて、まだ一時間も経過していないのに、もう梅干が恋しい)  現地人の部長は隣の席で、呑気にうたたねしている。  こちちはノートパソコンで、次の企画会議のプレゼンで資料の作成――まったく寝る間もない忙しさで、こんなところでも現代の士農工商が垣間見える。
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