プロローグ

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 空港に到着したのは、資料が完成してからだ。  日本はもうすぐ七月だというのに、赤道を越えた此処では十一月下旬、季節は秋になる。  もっとも紅葉などないから、紅葉狩りなどできないが、首都の街路樹に銀杏が多いので、黄色い絨毯のように石畳のメイン通りが色づくのが美しい。これが希望へと続く《オズの魔法使い》に出てくる黄色いレンガの道を想像させる。  唯一、その景色だけが救いといえば救いだ。  (ああ、でも空港へ着いたら寒くなるんだろうな)  飛行機の機内では温度は保たれているものの、現地に到着すれば外套が欲しくなるだろう。  日本ではカッターシャツ一枚だったが、気温の変化に体調を崩さないようにしなくてはならない。到着が近いというアナウンスを聞きながら、手提げバッグから取り出して上着を着た。  異変が起きたのは飛行機が空港に着陸してすぐだ。  いきなり部長が「作成した資料をチェックするから、USBメモリーを出しなさい」と、要求してきた。
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