北極星も眠る夜に

10/20
前へ
/20ページ
次へ
■□ 「じゃあ、行ってくるっす」 ジラフが手をあげて、ハシゴを登っていった。 その後に、ラルゴやフェイユーなど、グループのほとんどのメンバーが続く。 「みんなどこに行くの?」 残ったシンが、残ったオレに尋ねた。 「女買いに行くんだよ」 オレの返答に対して、シンは何も言わずに顔を赤らめた。 白い肌はその下の血色をよく透かし見せる。 「昨日配給があっただろ。 女街のはずれじゃパンの一個で買える女もいるから、みんなそこに行くんだ。 まあ、ババアばかりだけどな。 シンもやりたいなら皆について行けよ」 シンはふるふると首を振った。 「シアンは行かないの?」 そう訊かれて、オレは頷く。 「ムラムラしないワケじゃないけどな。 だが、お世辞にも治安がいいとは言えないこの街じゃ、パン一個のエネルギーが生死を分ける場合だってある。 これから寒くもなってくるし、オレはパン一個を選ぶよ」 「うん」 シンが心持ち強く頷いた。 「それに、あんな安いインバイヤドじゃあ、病気をもらわないほうが不思議だ」 「病気?」 「痒くなったり膿でたりするぐらいならマシだが、死に至る病気も多い」 「みんな死ぬのが怖くないのかな?」 「“ 死ぬまで生きてよう ”って考えてるヤツばかりだからな」 「どういうこと?」 「ここじゃ、無意味に生き延びたいって願うやつはほとんどいない。 自分が死んじまうその日まで、できるだけ空腹を感じないように、寒くないように、性欲を満たして、そうやって生きてければいいって考えてるヤツばかりなんだ」 「シアンは違うの?」 そう訊くシンの眼差しには、どこか期待するような光が宿っていた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加