北極星も眠る夜に

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「オレは……生き延びて、いつの日かこの国を出たい。 この国を出て、世界ってやつをこの目で見て回りたいんだ」 なぜだろうか。 オレは初めて他人に、自分の本当の願望を話していた。 シンは少し驚いたような目をした後、おずおずと口を開く。 「僕は……僕は生き延びて、家に帰りたい」 この思いだ。 シンをひと目見た時から、これを期待していたのだと、オレは気が付いた。 死ぬまで生きるのではなく、目的のために生き延びる――そう考える友だちを、オレは欲していたのだ。 ここのメンバーは仲間ではあるが、友だちではなかった。 シンの願いは甘ったれたものかも知れないが、生き延びるという意志はオレと同じものだった。 オレは左手を差し出した。 シンは不思議そうにその手を見る。 オレは手を伸ばしてシンの左手を取り、強く握りしめた。 そうすると、シンもふと気付いたようにオレの手を強く握り返した。 何か言おうとしたところで、マンホールの蓋が開かれるズリズリという金属音がした。 そこに不吉な響きを感じた。 弾かれたようにハシゴの見上げると、全く知らない顔がこちらを覗きこんでいた。 大人だ。
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