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「ジラフ、そのズボンどうしたんだ?」
オレはハシゴを降りてきたジラフが履いていた、妙に仕立ての良さそうなズボンに目をとめた。
濃紺のそれは、折り目もロールもピッとしている。
ただし、長さはジラフのスネほどまでしかない。
「新入りがいたんすよ。
綺麗なナリしてたから、見つけたオレらで、着てたもんをシェアしてやったっす」
ジラフは壁に走る配管に腰をおろし、背中を預ける。
綺麗だったズボンは、さっそく黒く粘る埃で汚れた。
下を流れる汚水が配管まで飛ぶことはないはずだか、揮発するか何かしたものが降り、上に溜まるのだろう。
そう考えると、オレたちの肺も心配になるが、防寒とは引き換えにできない。
オレたちはつい一週間ほど前にここに潜り込んでいた。
これから冬の終わりまでは、ここをアジトにするのだ。
「そいつは、レアだな」
親元では食えなくてここに来るヤツも、親をなくしてここに来るヤツも、綺麗な服を着ていることはめったにない。
その綺麗ではない服でも、オレたちの物に比べると幾分マシなので、新入りはたいてい追い剥ぎに遭うことになる。
「上の国から来たのかも」
ジラフが言った。オレは頷く。
ほとんどないことだが、そういうケースもある。
上の世界でも親に反抗して家を飛び出し、ここに来る者もいれば、訳ありで、ここに捨てられる子供もいるらしい。
オレはまだそういうヤツらに会ったことがなかった。好奇心が動いた。
「見てくる。
どこだ?」
そう言うと、ジラフは興味なさそうに答えた。
「ウォールナッツストリートの駐車場ですけど……。
でももう何にも残ってませんよ」
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