北極星も眠る夜に

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 *** 「ジラフ、そのズボンどうしたんだ?」 オレはハシゴを降りてきたジラフが履いていた、妙に仕立ての良さそうなズボンに目をとめた。 濃紺のそれは、折り目もロールもピッとしている。 ただし、長さはジラフのスネほどまでしかない。 「新入りがいたんすよ。 綺麗なナリしてたから、見つけたオレらで、着てたもんをシェアしてやったっす」 ジラフは壁に走る配管に腰をおろし、背中を預ける。 綺麗だったズボンは、さっそく黒く粘る埃で汚れた。 下を流れる汚水が配管まで飛ぶことはないはずだか、揮発するか何かしたものが降り、上に溜まるのだろう。 そう考えると、オレたちの肺も心配になるが、防寒とは引き換えにできない。 オレたちはつい一週間ほど前にここに潜り込んでいた。 これから冬の終わりまでは、ここをアジトにするのだ。 「そいつは、レアだな」 親元では食えなくてここに来るヤツも、親をなくしてここに来るヤツも、綺麗な服を着ていることはめったにない。 その綺麗ではない服でも、オレたちの物に比べると幾分マシなので、新入りはたいてい追い剥ぎに遭うことになる。 「上の国から来たのかも」 ジラフが言った。オレは頷く。 ほとんどないことだが、そういうケースもある。 上の世界でも親に反抗して家を飛び出し、ここに来る者もいれば、訳ありで、ここに捨てられる子供もいるらしい。 オレはまだそういうヤツらに会ったことがなかった。好奇心が動いた。 「見てくる。 どこだ?」 そう言うと、ジラフは興味なさそうに答えた。 「ウォールナッツストリートの駐車場ですけど……。 でももう何にも残ってませんよ」
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