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外は日が暮れはじめていた。
下水道にいると、時間の感覚がおかしくなる。
そいつは変わらずそこにいた。
だだっ広い駐車場には照明がなく、剥き出しのコンクリートが真っ黒で、まるで夜の海のようだ。
新入りは素っ裸でしゃがみ込んでいた。
金色の柔らかそうな髪が、風に揺れていた。
オレの足音に気付いて顔をあげたそいつは、何か言おうとして口を開いたが、けっきょくまた顔を伏せて、膝を抱えていた腕に力を込めただけだった。
肌が白い。
青い瞳を飾るまつ毛が長かった。
一瞬女なのかと思った。
だがそうじゃなかった。
そいつは顔を伏せたまま口を開いた。
「僕……服とられて……。
何か着る物を……」
消え入りそうな声でそう言った。
オレは自分が着ていたジャンパーを投げてやった。
ジャンパーはそいつのすぐ近くに落ちた。
手を伸ばしてそれを取ると、着ることはせずに、そいつは腰に巻いて、下半身を隠した。
立ち上がったそいつの胸に膨らみはかった。
うっすらと肋骨が浮いてはいたが、オレたちの誰よりも血色は良かった。
「あ、ありがとう」
「名前は?」
女でなかったことに幾分ガッカリしながらもオレは訊いた。
「ガン・シンチェン」
「どこから来た?」
「第三区西」
身なりや栄養状態からみて、上の国の人間に違いないとは思ったが、異国人のような金の髪色が引っ掛かっていた。
この街では髪色も肌色も雑多にいるが、上の国に黒髪以外の人間がいるとは知らなかった。
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