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「シン、足持て」
ジラフが言った。
シンは頷くと、おそるおそる死体の足首を持つ。
ボロボロで垢じみた、剥ぐ気にもなれないような服を着た中年の男だ。
顔のドス黒さは、たぶん生前もそれほど変わらなかっただろう。
「そんなんじゃ落としちまうって。
もっとしっかり脇腹で抱えるようにして持つんだよ」
死体の腋に手を入れるように抱えていたジラフが、いらいらした様子で言った。
シンはもう一度頷くと、死体の足をしっかりと脇腹に抱えた。
路上の死体を見つけたのが、“ブルームーン”のヤツでラッキーだった。
報告を受け、すぐにオレたちはそこに向かった。
用意したリヤカーに乗せると、ドクターのところに向かう。
見たところ、飢え死にではなさそうだ。
目だった外傷はなかったので、死因は病気か何かか。
脳さえ無事ならば、あとはどうでもいい。
「し、死体なんてどうするの?」
シンが訊いた。
下水道のねぐらに連れてきて二週間。
ブルームーンに馴染みはじめていたシンだが、この“仕事”は初めてだ。
ごろごろとリヤカーを引くのは、死体の発見者でもある、ラルゴ。
そのラルゴが振りかえって答えた。
「脳みそに電極を付けて、そいつの人生を取り出すのさ」
彼はのんびりと喋る。
性格のイメージのせいか その輪郭はどこかゆったりとした印象がある。
もちろん、家なしの少年たちに肥えるだけの栄養はないが。
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