北極星も眠る夜に

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■□ 「こりゃあ、だめじゃな」 医院の前まで出てきたドクターは、リヤカーの死体をざっと見て、そう言った。 白い眉毛が長く、その下の目を隠してしまっていて、表情が読めない。 ネズミ色の白衣は、医師というよりも呪術師といった雰囲気だが、元々は本当に医師であったらしい。 だが、こんな場所の医院では、医療で収入を得ることなどほとんど不可能なのだろう。 今はもっぱら、死体の記憶データ抽出を生業としているようだった。 「どうしてだよ? 見た目も綺麗だし、飢え死にでもなさそうだぜ」 飢え死にでの死体が喜ばれないというのは、以前から言われていた。 それはそうだろう。 飢餓ばかりで占められた記憶など、体験したい人間などいるはずもない。 「このホトケさんの死因は脳挫傷じゃ。 髪の毛で見えんが後頭部に強く打ったらしい痕跡がある。 おそらくは死亡する24時間以内にケンカで押されるかして、仰向けに倒れて後頭部を強く打ったんじゃろう」 「そうか」 「死体は持って帰ってくれ。 ちゃんと元あったトコに返してこいよ。 くれぐれもこの近所に捨てるんじゃないぞ」 「分かってるよ」 「くそっ、無駄足かあ」 徒労感を隠そうともせずにジラフがたらたらとリヤカーの向きを変える。 それを手伝っているシンに、ドクターが目を止めた。 「見ない顔だの。 新入りか?」 「ああ。 二週間ぐらい前にひろったんだ」 シンに代わってオレが答えた。 「二週間か」 ドクターはまじまじとシンの顔を見ていたが結局それ以上は何も言わなかった。
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