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……が、
「……そんなにキスしてほしいのかぁ?」
「このまま頭突きすんぞオラァ!!」
教師の経験を積んでいる神崎がうろたえる筈もなく、タバコを箱に戻して武藤の顎を掴み、先程よりも顔を近付けた。それも、唇が触れそうなほどに。
だが武藤もプライドが許さないらしく、
先程よりも強く額を押し付けている。
その時、神崎は何かに気付いた。
「…あ。」
「あ?」
「服ん中、見えてるけど?」
身を乗り出しすぎたせいで、ゆるい襟元から胸元が見えていたのだ。
「…!」
武藤は襟元を押さえて慌てて身を引いた。
怒りで赤くなっていた顔とは一変、真っ青な顔を背けている。
「…あんま聞くのも悪ィけどさぁ、気になるもんは気になるんだ。……その胸の傷は何?関係ねェは無しな。」
神崎の最後の一言に、武藤は再び盛大な舌打ちをした。
武藤の左胸に大きく残った横一文字の古傷。
何か鋭利な刃物で傷付けられたようだ。
「ちっさいころ…………………猫に。」
「阿保ぅ誰がそんな嘘信じるか何だその沈黙。」
まあ別に言いたくねェなら言わなくていいけどよ…と若干落ち込んでしまった神崎。教師の性なのか、今まで数え切れないほどの相談を受けてきた神崎としては、信用をされていないと感じいささかショックであったらしい。
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