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「……言いたくねェ…。」
「…から言わねェ…か。」
神崎の言葉を借り、武藤は言った。
しかし武藤は、背けた顔をバッと神崎に向けた。
「………っ…!」
泣くことを必死で堪えるような、そんな表情で。
「…言いたくて言いたくてたまんねェ、けど言ったらなんかが変わっちまうのか…他人からの目はどんなんになるんだろう…このオッサンは何を思うんだろう…あらかたこんなことだろ、お前が考えてンのは。」
神崎のその言葉に、武藤は下唇を噛み俯いた。
どうやら全て図星だったらしい。
「分かった。まだ言わなくていい。俺のこと本当に信頼できるおじさんって思えたら言えよ。」
神崎は立ち上がり、ズボンのポケットに手を突っ込みながらそういった。
「…それまで家は貸してやっから。」
「いつか話したら貸してくんねェのか…?」
武藤は俯いたままそう呟いた。
すると神崎は、武藤から自分の表情が見えないのをいいことにニヤニヤ笑いながらこう言った。
「そうさなァ……あ、お前が"お願い"してくれたら貸してやるよ。」
「…誰が…!…って笑ってンな!!」
武藤は勢いよく顔を上げ、神崎に食ってかかった。
だが神崎はそれが狙いだったらしく、
「お、顔上げたな?威勢のよろしいことで~。」
「…テンメ……!?」
勢いよく立ち上がった武藤は、
貧血のせいか少しよろめいた。
「…万全じゃねェんだから休んどけよ。クソガキ。」
「……んのクソオヤジ…!!」
武藤の言葉に聞く耳持たず、神崎は手をひらひらと振って保健室から出て行った。
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