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台所から出てきた武藤の右手には、神崎が愛用している和包丁が握られていた。
「おまっ…馬鹿野郎冗談に決まってンだろ!!」
「うっせェ近寄ンな!!」
ジリジリと下がる神崎に、何故かジリジリと下がる武藤。余程さっきの神崎の言葉が効いたのか。
「良いから包丁降ろせ馬鹿っ!!」
「安心できるまで降ろさねェ。」
未だ怯えた表情を見せる武藤に、神崎は強張らせた体の緊張を解き、浅くため息をついた。
そして神崎は情緒不安定な武藤に近づき始めた。
「来ンな!お前どうなるか分かってンのか!!」
「なぁに心配してくれちゃってんの~?」
いつもの気だるげな神崎に戻った。
「…まぁ安心しろ。」
「……は?」
一瞬の武藤の隙をつき、神崎は武藤の左手を引いた。
「わぷっ……にすンだよオッサン…。」
手を引かれた武藤は神崎の胸の中にすっぽり収まっている。神崎の左手は、保健室で武藤がジッポを押さえつけたように、武藤の右手を封じている。
「…な、いい子だから。俺が悪かった。」
神崎は空いている右手で武藤の頭を優しく撫でた。
「……っ!?」
今まで状況を理解出来ていなかった武藤は一気に顔を赤くし、冷静になった途端顔を真っ青にした。
_____赤くなったり青くなったり忙しいなコイツ。
神崎はそう思いながらも撫でる右手は止めなかった。
「離せオッサン…!…てかごめん…でも離っ…ぁあ"~どうすりゃいいんだよ!!」
「ハイ包丁没収~。」
確かに、武藤の心の深みに入り込むのは危険なのかもしれない。だがそんな心に寄り添えと校長は言う。
_____…無茶じゃないの~?
と神崎は思うが、同時に
_____…おもしれェお人だ。物好きなどっかのおじさんもああなれたら良いなぁ~。
などと思うのだった。
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