面白い人

6/6
前へ
/254ページ
次へ
台所から出てきた武藤の右手には、神崎が愛用している和包丁が握られていた。 「おまっ…馬鹿野郎冗談に決まってンだろ!!」 「うっせェ近寄ンな!!」 ジリジリと下がる神崎に、何故かジリジリと下がる武藤。余程さっきの神崎の言葉が効いたのか。 「良いから包丁降ろせ馬鹿っ!!」 「安心できるまで降ろさねェ。」 未だ怯えた表情を見せる武藤に、神崎は強張らせた体の緊張を解き、浅くため息をついた。 そして神崎は情緒不安定な武藤に近づき始めた。 「来ンな!お前どうなるか分かってンのか!!」 「なぁに心配してくれちゃってんの~?」 いつもの気だるげな神崎に戻った。 「…まぁ安心しろ。」 「……は?」 一瞬の武藤の隙をつき、神崎は武藤の左手を引いた。 「わぷっ……にすンだよオッサン…。」 手を引かれた武藤は神崎の胸の中にすっぽり収まっている。神崎の左手は、保健室で武藤がジッポを押さえつけたように、武藤の右手を封じている。 「…な、いい子だから。俺が悪かった。」 神崎は空いている右手で武藤の頭を優しく撫でた。 「……っ!?」 今まで状況を理解出来ていなかった武藤は一気に顔を赤くし、冷静になった途端顔を真っ青にした。 _____赤くなったり青くなったり忙しいなコイツ。 神崎はそう思いながらも撫でる右手は止めなかった。 「離せオッサン…!…てかごめん…でも離っ…ぁあ"~どうすりゃいいんだよ!!」 「ハイ包丁没収~。」 確かに、武藤の心の深みに入り込むのは危険なのかもしれない。だがそんな心に寄り添えと校長は言う。 _____…無茶じゃないの~? と神崎は思うが、同時に _____…おもしれェお人だ。物好きなどっかのおじさんもああなれたら良いなぁ~。 などと思うのだった。
/254ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1171人が本棚に入れています
本棚に追加