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しばしの沈黙。
そっと片目を開けると、深羽飛のまだ顔が目の前にある。でも、表情はいつものにっこり笑顔に戻っていた。
「…なーんて。高篠は意外とかわいい反応するんだね」
深羽飛はからからと笑いながらすっと体を離した。
「俺は元々違う部屋なんだけど、相方のいびきがすごくって。どうしても眠れないから、暫定的な寝床として219を借りてるんだ。寮長や先生は了承済みだよ」
「あ、ああ。そういうことか…。大変なんだな」
「今日は相方が帰省したから、久々に自分の部屋で一人で眠れる」
「俺も俺も。一人だとなんだかんだ気楽だよな」
「へえ。高篠も今日は一人なんだね…」
確認するように呟き、深羽飛はうがいを始めた。
俺が首を縦に振ると、フェイスタオルで顔を拭きながら再び微笑む。
「…お互い、一人を満喫しようね」
「今日はゆっくり眠れるといいな、おやすみ」
「おやすみ」
俺が欲しくてしょうがない言葉を置いて、深羽飛は洗面所を後にした。
どうにも妙な気分だけど、今日は廊下にいくつか気配があるのでのんびり構えることはできない。「おやすみ」の上書きを防ぐために猛ダッシュで突破を試みる。
自室のドアを閉じて内側から背中で押さえつけた。
整わない息を無理やり深呼吸に変えて上を向く。
空き部屋のはずの219号室、深羽飛の一瞬光った眼、危ないことしないでという泰士郎の言葉…。
気になることが頭の中でぐるぐるしてはいるけど…。
何よりもまず、今日は。
今日こそは、凜乃ちゃんとデートさせてください!
下段のベッドに横になり、急いで目を瞑る。
ぐるぐるしているものたちも思考に入り込んでくるが、とりあえずは眠ることに全神経を集中させる。
今日も俺の頭が枕を通り越し、さらにその下へと落ちていくような感覚に身を任せる。
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