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「…そっか。じゃあ、高篠(たかしの)は期末に向けて万全だね」
眠そうな目をこすりつつ、俺を見てにっこり微笑むこいつこそ、件の「とある奴」。
名前は橘深羽飛(たちばなみうと)。
同じ高1とは言え、クラスも部活も異なる深羽飛の情報で俺が持っているものは多くない。
外見が中性的を大幅に通り越して異なる性別に見えたりするってことくらいだろうか。男子校だといろいろと苦労することもありそうだけど。
「お互いに頑張ろうな。じゃ、おやすみ」
俺がここまで深羽飛とどうでもいい会話してきたのは、この最後の言葉を引き出すためだ。
そう、全てはこの一言のため。
「おやすみ」
まんまとその言葉を吐いて、深羽飛は自分の部屋へ向かって歩き出す。
その背中を急いた気持ちで見送る。俺がやるべきことは、この後不用意な「おやすみ」を食らわないように全速力で自室に戻るのみ。
俺たちが通う「私立兎猫学園高等部」は全寮制の男子校だ。
寮は基本2人部屋で、部屋割りはクラスなど関係なくシャッフルされている。棟は学年別で、俺がいるA棟には教育担当(ヘルパー)の上級生を除けば1年生だけだ。
この環境が、友人未満の間柄でも本日を締めくくる「おやすみ」をもらうことを可能ににしている。
俺の部屋はA棟の212号室。
急いで自室に戻った俺の最後にして最大の難関(ラスボス)は、2人部屋を共有する相方の存在。
でも、いいことなかったから早く寝る、とか言いつつ2段ベッドの上段に潜り込んだのを既に確認したから問題ない、はず。
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