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翌日の夜。
深羽飛は生活サイクルが割と一定のようで、ほぼ毎日23時半頃に洗面所に行けば会える。それがわかってるだけでもありがたい。
とは言え、今日はまだ泰士郎が起きてるんだけど。
「…たしかにね、塚本(つかもと)先生は出題に癖ありそうだもんなあ」
会話の端々ににっこり微笑む深羽飛。
こいつから繰り出される「おやすみ」を日々切望するうちに、なんだかこの笑顔が凜乃ちゃんのそれに思えてきて、たまに頭の芯がしびれるような感覚になる。
「深羽飛は古文得意なんだろ?」
「得意っていうか、好きってだけだよ」
好き、か。
早くその言葉を、凜乃ちゃんの口から聞きたいんだ。俺の願いはそれだけ。
「じゃあ、今日は寝るね。おやすみ」
「おやすみ」
今日も凜乃ちゃんの夢を生み出す「おやすみ」を口にして、去って行く深羽飛。
珍しく周囲に他の気配がないのでその姿を見送ってみる。考えてみると、深羽飛の部屋がどこなのかも知らなかった。
少し向こうでドアが開き、すぐ閉じる。
時間的に人に会ってしまうリスクはあるけど、どうしても確認しておきたいという衝動に駆られた。
深羽飛が入ったドアの前まで行って確かめる。
部屋番号は「219」。
「歩くん、どうしたの?」
背後の声に振り返ると、つぶらな瞳できょとんとこっちを見る泰士郎がいる。
「おま、おどかすなって…」
「なんか、ふらふらと歩いてくのが見えたから、ちょっと不安になって」
頷きながらデカい体を揺らして俺の隣まで来る。
「この部屋に何かあるの?」
「別に。深羽飛の部屋だろ」
「みうと?」
泰士郎は首を傾げながら部屋番号を確認して、大きなため息をついた。
そして、俺の顔をじっと見つめる。
「歩くんさ」
「なんだよ」
「ここ、空き部屋だよ」
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