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 翌日は早朝から起きだした泰士郎が、慌しく準備をして部屋を出て行った。  ドアを閉める直前に一言、 「行ってくるよ、今日は危ないことしないでね」という、意味不明の言葉を残して。  危ないことってなんだ? 俺のささやかな幸せを危ういものにするのはお前という存在に間違いないんだけど。  そう、今日は誰にも邪魔されずに凜乃ちゃんと初デートできるはずだ。  必ず成功させてみせる。ふはは。  深夜の洗面所で深羽飛を待つ。  今日は土曜なので実家に戻るやつもいる。深羽飛がそうでないのはすでに調査段階で確認済み。  スマホで時間をつぶしていると、向こうからスリッパのパタパタ音が響いた。 「あ、高篠!」  天使のような笑顔を俺に向ける深羽飛。  さあ、早くお前の「おやすみ」を俺にくれ。 「…そういやさ、深羽飛って219だっけ?」 「うん、そうだけど」 「なんか、俺と同室の奴がさ、219は空き部屋だとか言うから」  歯ブラシを口につっこみながら、ちらっとこっちを見る。 「へえ。だったらどうする?」 「だったら、って」 「空き部屋だとしたら、俺は一体何者なんだろうね」  歯ブラシが入ったままの口角が少し上がったように見えた。  その微妙な表情の変化に、奇妙な感覚を覚える。 「何それ。実はユーレイとか言う?」  深羽飛は口から歯ブラシを引っこ抜いて、ゆっくりと俺を正面から見据える。  その目が一瞬紫がかって鋭く光る。照明の加減か、普段見慣れない色を帯びていたようで目に焼きついた。  そのまま深羽飛の顔がゆっくりとこっちに近づいてくる。目にはもう色はなく、表情は能面をはりつけたかのようにさっきから変わらないまま。  鼻と鼻がぶつかるくらいの距離で、耐え切れず視界を遮断した。 「…ちょ、っ!」
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