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「ああ、じゃあ、これで失礼するよ。元気そうだから、夕食は一緒に食べようね。といっても、俺がホストじゃないんだけどね」
軽口たたく男の誘いにもわたしは憮然としていた。
それでも男はにこやかに手を振って妹についていった。妹が連れてきた人間の中では群を抜いて愛想のいい男だった。こちらが笑顔を見せなくとも笑うことの出来る人間だった。
いつもなら去り際に、空気の読めないわたしに対して妹はこれ見よがしに「態度悪くてごめんね」と友人らにいうものだが、彼はそれさえもいわせなかった。
姿が見えなくなっても遠く離れるまでふたりの楽しげな声は聞こえた。
「早く来すぎちゃったから、お父さんもパジャマじゃないの」
「今何時だと思ってるの? もうすぐ四時よ。父も母も、朝起きて部屋を出る時からきちんとした恰好をしてるわよ」
「うわ。やっぱり。俺、風呂上がりはしばらくなにも着たくないタチなんだけど」
「だったら、わたしたちの部屋にバスルームを取り付けてもらうわ」
「いえばなんでも願いが叶うのか。きみのパパはドラえもんか」
男の笑顔まで届いてきそうな笑い声が響いた。
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