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「俺の力では、お前を抜くのが精一杯というところだろう。言い訳をさせてもらえば、俺の力が先祖の惟忠に劣っているわけではない。長く年月を重ねたお前の力が、それだけ強くなったということだ」  秋の夜、縁側で月を眺めながら、惟忠はそう言った。  黒かった髪には白いものが混じり、目尻や頬には幾筋もの皺が刻まれている。間違いなく、惟忠にも老いが迫っていた。 「瀬嶋を、恨んでいるか」  その問いは唐突で、思いもよらないものだった。私は答えを探すより、問いの意味を理解するのに時間を要した。  黙ったままの私を見て、惟忠は微かに笑う。 「お前に比べて、人の生は驚くほど短い。お前が人と心を通わせても、人はお前を置いて逝く。同じ刀であっても、蒼牙や花影はお前の力を認め、近付くことさえ畏れ多いと思っているようだ」  それは知らなかった。幾つもの春秋を、共にこの神社で過ごしたはずなのに。しかし納得もする。蒼牙や花影と言葉を交わしたことなど、ないにも等しい付き合いだったから。 「人にも寄り添えず、刀にも交われず──お前を独りにしてしまったのは、俺たち瀬嶋だ」  ああ、そうか。  私は己の抱く虚無の名前を知る。  これは、孤独というのだ。  私は──独りだ。  頬を撫でる風が、冷たくなった。  私と惟忠の間に、風が渡る。惟忠の大きかった目には、年月の重みに耐えかねた瞼が幾分下がっている。しかし私を見つめる双眸は、在りし日のままに輝いていた。 「お前は長く、瀬嶋と共にあった。お前を縛り付けておく権利など、瀬嶋にはないというのに。だから、もういい。もしも、お前が望むなら──」  一呼吸おいて唇から出た惟忠の言葉は、鋭い矢のように私を射抜く。 「この命に換えても、俺がお前を鋳潰してやる」  強い意志を秘めた瞳は、秋月よりもなお怜悧な光を放っている。
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