泣く子には敵わない

　寝しなに赤ちゃんがぐずるのは、まだ眠るのが上手くないからだという。
　意識を失うのを怖がっているから安心させることが大事ーーと教えてくれたのは、育児書だったか先輩ママだったか。

　砂彩も寝ぐずりの常連（？）で、毎晩必ず二回か三回は泣く。そのたびに亜砂は家事、時にはトイレや入浴も中断し、砂彩の元に駆けつけなくてはならなかった。
　「また？」とか「勘弁してよ」とか「いい加減にしてほしい」とか。思うこともあるにはあるが、そんなのお構いなしに子どもは泣く。
　泣くことしかできないからだ。
　そんな存在をつつがなく守り育てるためには、何よりも最優先する他ない。
　そして一刻も早い原因（おっぱい、オムツ、眠い、その他）の究明と解決（おっぱい、オムツ替え、寝かしつけ、その他）を目指す！　これ即ち母親の義務であるーーというのが亜砂の、新米ママらしいはりきった考えだった。

　妊娠期間を入れなければ、約五ヶ月のママ歴。

　順調に赤ちゃんの奴隷になっております。

　だけど娘の、ふとしたしぐさや表情、毎晩の寝顔。これに勝る報酬なし。
　毎日忙しなく大変だけれど、亜砂は自分なりに子育てに奮闘していた。