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「……砂彩!?」
喉の奥から声を絞り出した。
何故、ベッドで寝ているはずの砂彩がこんなところにいるのか。
そう疑問に思う前に、亜砂は砂彩を抱き上げていた。
「砂彩!」
抱き上げた感触は間違いない、砂彩だ。この腕に刻み込まれた重みだ。
砂彩はいつものように、弱々しくぐずっていた。
慌ててちいさな身体を触って確かめる。
怪我は……無い。服も濡れていない。
いつものように、寝ぐずりをしているだけだった。
「砂彩……よしよし。一体どうしたの?」
答えてくれるはずがない。だが、尋ねずにはいられなかった。
さっき寝かしつけた砂彩が、どうして風呂場に?
この赤ちゃんは間違いなく砂彩だ。匂いも背中や手足の柔らかさも、まるいほっぺもおだんご鼻もふわふわの髪の毛も、毎日接している私の娘のものだ。
世界でいちばん砂彩の近くにいる私が、間違えるものか。
……では、『さっき寝かしつけた砂彩』は?
母親に抱かれ安心したのか、やがて砂彩はぐずるのをやめ、鼓動と共に安眠に入った。やっぱり寝る子は重い。
呆然と抱っこしたまま突っ立っていると、ーー再び、『それ』は家の中に響いて亜砂の元に届いた。
赤ちゃんの泣き声が。
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