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「花江、寄りを戻さないか?」
裕二は意を決して言った。
花江は驚いた表情を浮かべた。
「何言ってるの? 彼女いるじゃない」
「彼女とは別れるよ、もちろん」
花江には、彼女とは結婚前提で同棲している、とまでは言っていなかった。
「そんなのだめだよ」
「俺は、あの時、花江に言ったように仕事を精一杯頑張った。そして成功して戻ってきた。迎えに来たんだんだよ」
花江はうつむくばかりだった。
しばらくして、首を横に振った。
「それは、できないよ」
裕二は訴えかけるように花江に話した。
花江と離れて初めて気づいたこと。
英子といる日々は、なぜか孤独だったこと。
花江と連絡している時だけが、孤独を忘れさせたこと。
「できるわけないじゃない」
「なんで……」
「言ったじゃない、私好きな人いるから」
「片思いなんだろ?」
「今日、その人が告白してくれたの。もちろん付き合うことにしたの」
裕二の視界が揺れた。
だから花江は遅刻したのか。自分の前にその男と会ってたのか。
「……。なんだよ、それ」
裕二は、惨めだった。勝手に舞い上がり、そして振られた。
「ごめんなさい。もう会わないほうがいいよね。連絡も……」
「そんなことないだろ、連絡くらい」
3年前とは逆の立場だった。裕二が花江にすがっていた。
「お互い、恋人いるんだし……」
「連絡くらい取ってもいいだろ!」
気が付くと、大きな声で花江に迫っていた。
ウェイターや周りのお客がこちらを見ている。裕二はすぐに我に返った。
3年前、一方的に別れ、花江から連絡が来ても、無視し続けた裕二。
それを考えると、ずいぶんと勝手な言い草だった。
「そんな大声出さなくても……」
花江は下を向いたまま、それ以上何も言わなかった。
会計時、花江は半分払うよと財布を出したが、裕二は「いいよ」と制した。
それでもしつこく払うと言う花江に対して、裕二は再び大きな声で怒鳴ってしまった。
俺は最低な野郎だ……。裕二は心の中でそう思った。
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