第5章 報い

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第5章 報い

帰りのエレベーターが長かった。 エレベーターの中は二人だけだった。 裕二の身体は震え、頭の中がモヤモヤしていた。 今まで裕二は挫折を知らなかった。 仕事の成功はもちろんだが、恋愛に関してもそうだ。 欲しいものは全て手に入れてきた。 このまま花江が、手に入らないなんて、ありえない。許されない。 裕二は花江を見つめた。 花江は不安そうな顔で裕二を見返した。 裕二は花江をエレベーターの隅まで追いやり、嫌がる花江に無理やりキスをした。 「やめて!」 花江は裕二を振り払おうとしたが、逆に押さえつけられた。 裕二は、花江の胸を揉み、スカートに手を入れようとした。 「やめてよ、やめて!」 花江は泣き叫びながら、裕二を突き飛ばした。 それと同時に、エレベーターが一階に着き、ドアが開いた。 「最低……」 花江は涙を浮かべながら、裕二を睨みつけた。 裕二は視線をそらし、何も言わなかった。 花江はそのまま走り去っていった。 裕二は放心状態で英子のいる家に戻った。 英子は「意外と早かったね」と言った。 家の時計を見ると、夜の十時だった。 「珍しいね、英子がこんな時間に起きてるなんて」 「最近、疲れるでしょ。心配してたんだからね」と英子が言った。 「ありがとう。まさか心配してくれてたなんてね」 裕二が笑うと、「当たり前でしょ」と、英子も笑った。 「お風呂、湧いているから」 その言葉を聞いて、思わず、裕二は英子に抱きついていた。 湯船に浸かりながら、裕二は左手を見た。 花江との日々はもう戻らない。 いや、戻らないだけなら、まだいい。 花江を傷つけてしまった。 人として、やってはいけない傷つけ方をした。 最低だ……。そう思いながら、涙を隠すように湯に潜った。 風呂を出た後、裕二はソファに座った。 英子は、パンツ一枚でいる裕二を嫌がったが、 構うことなく、裕二はもう一度、英子に抱きすがった。 英子しかいない、そう思った。
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