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第2章 デバイス
数日後、裕二は稔の大学の研究室を訪れた。
「まぁ座れよ」
裕二がソファに腰掛けると、稔も対面に座った。
「で、小さな端末がほしいと?」
「そうなんだ」
「それにしてもすごい彼女だな」
「まぁな」
「これなら、花江の方が良かったんじゃないのか?」
花江とは裕二が前に付き合っていた彼女だった。
彼女も裕二の大学時代の同級生であり、稔とも当然、面識があった。
花江とは、一時同棲し、結婚まで約束していた。
裕二は「仕事に集中したいから」と言う理由で、花江に一方的に別れを告げたが、もちろん、その裏には英子の存在があった。
浮気相手として花江を残しておくという手もあった。
しかし裕二はそれをしなかった。
そんなことできるはずもなかった。
英子が怖かったからではない。
それはあまりにも不誠実すぎると思ったからだ。
確かに、裕二が花江に隠れて浮気をしていたのも、一度や二度ではない。
裕二は絵に描いたような不誠実な男ではあるが、心から愛していた女性を無意味につなぎとめておけるほど、悪人というわけでもなかった。
「もう連絡は取ってないの?」
「ああ」
「結婚寸前までいったのにな」
「まぁ、過ぎたことだよ」
裕二は表情を変えず、そう言った。
「で、相談の件なんだけど……」
「ああ、端末の件だったね。良いのがある」
「教えてくれ」
「もう端末を持ち運ぶ時代は終わったんだ。これからは人体デバイスさ」
「人体デバイス?」
「君自身の左手に、携帯電話の端末を埋め込むんだ」
稔は極薄のリングを取り出し、テーブルに置いた。
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