第2章 デバイス

1/3
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ

第2章 デバイス

数日後、裕二は稔の大学の研究室を訪れた。 「まぁ座れよ」 裕二がソファに腰掛けると、稔も対面に座った。 「で、小さな端末がほしいと?」 「そうなんだ」 「それにしてもすごい彼女だな」 「まぁな」 「これなら、花江の方が良かったんじゃないのか?」 花江とは裕二が前に付き合っていた彼女だった。 彼女も裕二の大学時代の同級生であり、稔とも当然、面識があった。 花江とは、一時同棲し、結婚まで約束していた。 裕二は「仕事に集中したいから」と言う理由で、花江に一方的に別れを告げたが、もちろん、その裏には英子の存在があった。 浮気相手として花江を残しておくという手もあった。 しかし裕二はそれをしなかった。 そんなことできるはずもなかった。 英子が怖かったからではない。 それはあまりにも不誠実すぎると思ったからだ。 確かに、裕二が花江に隠れて浮気をしていたのも、一度や二度ではない。 裕二は絵に描いたような不誠実な男ではあるが、心から愛していた女性を無意味につなぎとめておけるほど、悪人というわけでもなかった。 「もう連絡は取ってないの?」 「ああ」 「結婚寸前までいったのにな」 「まぁ、過ぎたことだよ」 裕二は表情を変えず、そう言った。 「で、相談の件なんだけど……」 「ああ、端末の件だったね。良いのがある」 「教えてくれ」 「もう端末を持ち運ぶ時代は終わったんだ。これからは人体デバイスさ」 「人体デバイス?」 「君自身の左手に、携帯電話の端末を埋め込むんだ」 稔は極薄のリングを取り出し、テーブルに置いた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!