第2章 デバイス

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「このリングは携帯電話と連動する端末になっている。これを埋め込む」 「埋め込むって体内に?」 「そうだ。左手首にはめて、そのまま埋め込む。俺はすでに埋め込み済みでね」 稔はそう言って、自分の左手の手のひらを裕二に見せた。 「手首を触ると、端末が起動する」 稔は、右手で左手首を握り、数回擦ってみせた。 稔の手のひらに、スマートフォンの画面が、鮮明に映写されていた。 「手首に埋め込まれたリングが、手のひらの皮膚下から携帯の画面を投影してくれる。簡単に言うと、リングが映写機で、手のひらはスクリーンだ」 裕二は目を丸くしながら、説明を聞いていた。 「もう一台、別のスマホを用意してくれ。そのスマホとリングを連動させる。手のひらで更新した情報は、自動的にそれに反映される。彼女に盗み見られのが嫌なら、その本体は、絶対に見つからない場所に隠すんだな」 「操作は?」 「操作もスマホと一緒だ。タッチパネル形式になっている。右指で文字を打つこともできるし、画面を拡大したり、縮小することもできる」 稔は、右手で左手の手のひらを、何度か擦ってみせた。 裕二の携帯電話が鳴る。 稔から『実験』という文字がLINEで届けられた。 「理解できたか?」 「ああ、なんとなく」 「まだLINEとメールしかできないけどね」 「機能はそれだけで十分だよ」 冷静を装っていたが、裕二は内心興奮していた。 稔の動きは傍から見れば、手を少し擦っただけだった。 LINEやメールをしているなんて、夢にも思わない。 「人体に影響はないのか?」 「もう半年前から使っている」 稔は微笑んだ。その言葉で、裕二は十分だった。 費用は無料だった。 稔は、自分以外の被験者が欲しかったんだ、と裕二に説明した。 デバイスの埋め込みには多少時間がかかった。当然、外科処置が必要になる。 稔の勤める大学の系列病院での検査、手術による1週間ほどの入院を含め、2週間を要した。 英子と会社には、疲労による検査入院ということにしておいた。 もちろん英子は心配したが、同棲や結婚を控えているし、大事を取っての入院だと、裕二は念を押した。 稔の協力で診断書の偽造も可能だった上に、実際に入院しているので、怪しまれることはなかった。
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