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それを、私は少しだけ離れた場所で見ていた。
「幽霊、ね。」
誰に話しかけるわけでもなく呟いた。
「こんなに近くにいるのに気がつかないんだから不思議だわ。」
私は、真っ黒な空に輝く月に手をかざした。
その手は透けて、淡い月の光を映し出している。
「ああ、そろそろだわ。」
消えてしまう前に、大切な人に会えてよかった。
もう、何の未練もない。
彼もきっと、目が覚めたら全て忘れている。
全て
全て
全て…
「っ…」
声にならない何かが、喉の奥からこぼれた。
ああ、やっぱり私、この世界が好きだなあ。
大切な人たちと過ごしたあの日々が、大切で、大切で。
大好きだったこの世界に、最期の言葉を贈ろう。
「おやすみ。」
私が消えた世界には、ほのかに甘いあの花の香りが、薄く残されていた。
fin.
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