1人が本棚に入れています
本棚に追加
「ここで休んで、明朝に戻る。今日はもう飯食ってさっさと寝るぞ」
そう宣言して、タツミは慣れた様子でテキパキと食事の準備を始める。料理が出来上がるまで、灯里は借りてきた猫のように大人しくしていた。用意されたのは暖かいスープと硬いパンの質素な食事だった。質素とはいえ、ここが融通の効かない遺跡であることを考慮すれば上等な品だ。
「いただきます」
黙って食べ始めるタツミに対して、灯里は行儀よく手を合わせて食事の挨拶をする。タツミを真似てパンをちぎるとスープに沈めた。ふやけたパンを一気に頬張る。口内広がるパンの甘みとスープの塩っ気の絶妙なマッチングに灯里が目を見開いてタツミに頷く。
「喜んで貰えて何よりだから、落ち着いて食え」
心に急かされるように次の一口を用意する灯里にタツミが苦笑する。
意図せず少し忙しなくなった夕食を済ませると、瓦礫を避けて人の目を遮るように組み上げて、ひっそりとした寝るためのスペースを作る。遺跡を回って危険は無さそうだと判断していたが、突き崩された壁も気になりタツミが講じた措置だ。
バックパックから寝袋を引っ張り出すと、タツミはそれを灯里に渡した。
「テントとか上等なもんは持ってねえんだ。そいつで勘弁してくれ」
「タツミさんは?」
「俺にはその羽織ってるもんを返してくれりゃいいよ」
灯里の肩にかかった布を指差してタツミが答える。一瞬、不満そうな表情を表に出してしまった灯里だったが、すぐに頷く。これまでのやり取りでタツミが譲れないものは頑として譲らないことを理解していた。
「わかりました。でも、体調崩したりしないでください。タツミさんが頼りなんですから」
些細な抵抗として一言残して、灯里が寝袋と交換に羽織っていた布を渡す。
最初のコメントを投稿しよう!