時に、大和撫子

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三月晦日(つごもり)、それは春の終わりの日。 「春の限り」や「三月尽」など、春の終わりを表現する言葉は幅広く存在するけれども、総じて「去り行く春を惜しむ気持ち」が古くから和歌に詠まれてきた。 三月晦日の和歌としては、代表的なものに『伊勢物語』中の一首―「惜しめども 春の限りの 今日の日の 夕暮にさへ なりにけるかな」が挙げられる。 もっとも、今までのくだりは、太陰暦を使っていた中世・近世に関して言えることであって。 三月晦日である今日、すなわち新暦三月三十一日といえば、現代においては春の終わりというよりも学期末という印象の方が強いのではないだろうか。 特に学生にとっては、学年を終える最後の日として。それは私にとっても同じだ。 *** 引越し業者が、段ボールを次々と私の部屋に運び込んでいく。 「あ、そうだ。段ボールから荷物出さないままで大丈夫だからね」 業者の人たちが働く様子をリビングでぼんやりと見守っていると、私の隣に立っているお母さんが、そう声を掛けてきた。
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