時に、大和撫子

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「え、何で?」 「荷物の整理だったら学校が落ち着いてからでも出来るんだから、先に学校に行くルートを確認した方がいいんじゃない?」 そっか、と呟いたのは、確かにお母さんの言葉に納得したのもあるけど、荷物整理という作業を面倒に思っていたからだった。 それなら、これから通うことになる大学院を下見する方がよっぽど良い。 「じゃあ行ってくるね」 「行ってらっしゃい」 コートに袖を通しながら、業者の人の邪魔にならないように廊下の端を歩き、開けっ放しのドアを抜け出る。 まだ寒さの残っている春の空気を吸い込むと、鼻の奥がツンと染みた。 冷えた指先を温めようと、拳をぎゅっと握りしめながら歩く。 私―橘詩織は、現在二十二歳。この春から地元にある大学院に進むことになっている。
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