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病室の窓に目を向ければ、茂った木々の葉っぱがサラサラと揺れるのが見えた。
眩しい日差しを浴び、黄緑色に透けたその葉はそのうち空に溶けてしまうのではないかと、桐谷文乃は思う。
また夏が来るんだ……。
胸の奥がきゅっと苦しくなった。
腕に繋がれた管に点滴の滴がぽたりぽたりと落ちていく。
その滴が生命を繋げてくれるはずだと心から願って、文乃は掌を大きく広げ、自分の身体をそっと撫でた。
窓の端に少し引かれた白いカーテンがふわりと舞い、それと同時に病室のドアの開く音がした。
「文乃」
名前を呼ばれ、振り返る。
「優人。来てくれたんだ」
病室に入ってきた彼に笑顔を見せた。
「お仕事、大丈夫なの?」
平日の真っ昼間に急いで駆けつけてくれた彼を気遣う余裕はまだあるらしかった。
「今日は休みを貰ったから大丈夫だよ。調子はどう?」
「うーん。ちょっと痛むくらいかな……」
「そっか……」
小さく零れた彼の声の様子で心配してくれていることが伝わってくる。
2人は互いの不安を目で伝え合って、どちらからともなく微笑み合った。
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