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冷房の効いた大学の建物から外へ出ると、ムワッと生温い風が肌を撫でた。
構内は相変わらず人が賑わっていて、図書館の静けさが嘘のようだった。
大学の学生たちがオープンキャンパス来場客の対応に忙しなく動いている。その中を人の流れに反して構外に向かって歩くのはちょっと後ろめたい感じがした。
数時間前大学に訪れた時はこの催し自体に嫌気を感じていたくせに、今そんな風に思うのは優人に繋がれた手のせいかもしれない。
「あの、篠崎さん!」
すぐ前を歩く優人に声を掛ける。
「ん?なに?」
「あの、手…」
「あぁ。ごめん。痛かった?」
優人は繋いだ手を少し緩めてくれたけど、離してはくれなかった。
「ううん。そうじゃなくて…」
優人に繋がれた手が妙に恥ずかしかった。
大学構内をこうして堂々と手を繋いで歩いているところを誰かに見られたら完全に誤解される。
今までになく引き込まれた作品を読んだこと。
その作品の作者が突然目の前に現れたこと。
その作品がノンフィクションで、作品に描かれていた『彼女』がすでに亡くなっていると知らされたこと。
読んだ本の世界から完全に意識が抜け切れていなかったせいなのか、いろいろなことを一気に受け止めたせいなのか、不自然なくらい優人に流されているのかもしれない。
「あの…、手を離して?」
文乃は小さな声ながらもそうお願いしてみる。
すると優人は急にふて腐れたような顔をしてみせて、「えー、いやだ」と言った。
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