375人が本棚に入れています
本棚に追加
/188ページ
本を読み始めると読み終わるまでは他のことは一切しようとしない文乃と過ごしていても、優人は一度もつまらなそうな顔をしなかった。
むしろ優人の方が本に夢中になっていて、文乃が待たされることもあるくらいで。
優人と過ごすようになってから1週間。
文乃が『今週のおススメ小説』の一冊を読み終わって一息つくと、その日も優人の姿は近くになかった。
今日はどのあたりの本棚を物色しているんだろう?文乃は立ち上がり、優人を探し始める。
本棚に挟まれた通路を一つずつ覗き、優人が居るか確認する。今日の優人は研究書コーナーの本棚の前に立っていた。
近づきながら優人の様子を伺う。
優人は本棚から1冊の本を取り出すと、その本の表紙と裏表紙をじっくり眺め始め、それから本を開き、中身をペラペラめくり始めた。
しばらくそのまま読み耽るのかと思いきや、今回は興味を示さなかったらしい。
手にした本を閉じ、本棚に戻す。
そして近くにある本を1冊取り出すと、さっきと同じように表紙と裏表紙をじっくりと眺め始める。その本もそのまま本棚に戻された。
ここ数日、優人は大学の図書館にある本を隈なく観察しようという勢いらしく、いつもこの調子だった。
本棚にある本を一冊一冊手に取り、観察しては戻す。興味がある時は読み耽ける。
「気になる本、見つかった?」
文乃は優人のすぐ隣に立って尋ねる。
優人は文乃に気付いて微笑み、「大学の図書館って本当に面白いね」と言って、今度は『漢文訓読』と書かれた研究書を取り出して、その本を観察し始めた。
「こうした研究書や専門書こそ、図書館にあるべきなんだよね。ちょっと盲点だったな」
文乃に対して発せられたというよりも、心の声が漏れたといったような呟き。
最初のコメントを投稿しよう!