【Special chapter ~真斗の機微~】

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予定日まで二ヶ月ほどもあるのに、彼女に陣痛が来た。 病院からとジャン=ジャックから、連絡があって、僕は慌てて病院へ向かった。 病院に着くとすぐに医者に呼ばれる。 「右の卵巣にも、小さいのですが転移を確認しました。念の為左の卵巣も合わせて摘出する事を勧めます」 それを理恵にも話してくれと言われた、重い役目を請け負ってしまった。 病室に戻ると、ジャン=ジャックは気配を察してすぐに帰ってしまった、むしろ居てくれた方が良かったな……。 「名前……“まなぶ”とかいいなあ」 「まなぶ……? どうして?」 「初恋の子の名前、幼稚園の時のね」 「幼稚園の初恋か……妬けるな」 まなぶ……か。 ふと、バカな考えが浮かんで、我ながら苦笑した。 岩崎の家には、男子には『真』の字を使う習慣がある。父は真澄、叔父は真彦、弟が真悟で、大伯父達は真嗣に真之介だ。分家では使ってはいない。 理恵が全く違う名を言えば思いつかなかったろうに、何故、あの家の古いしきたりを思い出したのか。つくづく嫌になる。 「ねえ……聞かせて?」 彼女は覚悟ができている、言い濁すこともないようだ。 話すと、さすがに両眼から涙が溢れでた。 「女じゃなくなっちゃうわね」 「そんな言い方はやめてくれ」 そんな事は関係ない、君が君である事が大事だ。 君が生きてくれている事が、僕には重要だ。
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