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夕方、たまに世良くんは猫たちの写真を送ってくれる。
たぶん学校帰りに見かけた時に撮るのだろう。
クラスになかなか馴染めなかった私は、そんな猫たちの写真にだいぶ癒されていた。
「わぁ! かわいいね!」
昼休みの教室でしっぽとソックスが寄り添っている写真を見ていたら、突然声をかけられた。
「あ、勝手に見てゴメン」
「ううん」
「曽我部さんちの猫?」
そんな会話がきっかけで、一緒にお昼を食べる友達が出来た。
中学のときよりも自然と心を開いて仲良くなれたのは、世良くんのおかげかもしれない。
猫も人付き合いもそんなに怖いものじゃないと教えてくれたのは、彼だったから。
世良くんはこの間、入院した。
朝、『入院したからしばらく一緒に行けない』というメッセージを見てビックリしたけれど、退院した後、詳しい話を聞いてもっと驚いた。
「実は俺、気管支喘息なんだ。小さい頃に比べたらだいぶ良くなったんだけど、夜中に発作を起こすことはよくあるんだ。たいていは吸入すれば治まるんだけど、今回は救急に駆け込んで点滴してもらってもダメだったから入院になった」
病気らしい病気もしないで大きくなった私にしたら入院なんて大ごとなのに、世良くんはこれで八回目だなんて威張っていた。
「あ、じゃあ、出会ってすぐの時も?」
「うん。あの時はしっぽを撫でちゃったから。……俺、ホントは猫の毛はダメなんだ」
「ダメってわかってて撫でたの?」
「だって、沙也が怖がってたから」
私が怖がっていたから? 怖くないよって教えるために、発作を起こすってわかっていて撫でたの?
発作を起こしたら、すごく苦しいんだよね? 胸がヒューヒュー鳴って息苦しくなるって聞いたことがある。
「そうなるかもってわかってて、私のためにやってくれたの? 出会ったばかりの私のために?」
「友達のために力になりたいって思うのは普通でしょ?」
私、今までそんなこと思ったことあったかな?
――自分のために誰かが手を貸してくれるのを当然と考えるのが子どもで、誰かのために自分が手を差し伸べるのが当たり前だと思うのが大人。
何かにそんなことが書いてあったっけ。
えくぼの出来た笑顔は幼く見えたけれど、きっと世良くんは私よりもずっと大人だ。
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