桜色の春

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「ちょっとした意趣返し――これくらいの意地悪、許されると思うけど」 薄暗い車内で、けいちゃんは運転席から流し目を寄越す。やっぱりオトナゲな~い。でも、あたしそんな目で見られると、そんな風に言われると、あたしは何も言えなくなっちゃう。惚れた弱み? 「仲直りしよ? 俺ら、こんなことでケンカしてる暇ないじゃん?」 けいちゃんの腕があたしの肩に伸ばされる。ギア越しに抱きしめられるのを、あたしはそのまま受け入れた。窮屈なラブシーンなのにキュンってなった。 「けいちゃ…ん」 「…ここまでついてきてくれて、ありがと。そんなに贅沢とかさせてあげられないけど、幸せにするから――結婚式もすぐは無理だけど、千帆が大学卒業するまでにはしようね」 やっとやっと、普通の恋人同士になれたあたしたち。凍結されてた恋が解かされて、加速して進んでく。目まぐるしいスピードに、くらくらするけど、ジェットコースターに乗ってるみたいで、ワクワクとドキドキも半端ない。 「うんっ」 車内で短いキスをして、あたしは車から降りた――けいちゃんに会うのは、それ以来。 「ちぃ?」 唇に触れて、あのキスを反芻してたら、また七海がスマホの向こう側から呼びかけてくる。 「あ、ああっ。ごめん、うん、大丈夫…仲直りしたよっ」 「なら良かった。いってらっしゃ~い」 「はーい」 今日家具屋さんにインテリア見に行って、明日電化製品見に行く予定。けいちゃんは、なんだかんだ学校があって、休みが週末しかないから、土日の予定カツカツ。 結婚前の残り少ない時間。普通の人は、独身最後に女友達と旅行したり、家族との時間を有意義に過ごすんだろうな…。そんな時間の余裕もなければ、マリッジブルーになる暇もない。 「千帆、慧史くん来ちゃったわよ」 あたしの部屋の窓の下を覗くと、けいちゃんのワーゲンがあの夜と同じとこに停まってる。七海との話を終わりにすると、あたしは春色のコートを腕に引っ掛けて、階段を駆け下りた。
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