桜色の春

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けいちゃんに貰ったばかりの新しい鍵を、付け替えられたドアの鍵穴に差し込んだ。くるりと手首を捻ると、がちゃっと乾いた音が響く。 中央にガラスの入った黒いドアにステンレスのハンドル。以前と全く違う外観に期待に胸を弾ませて、ドアを引いて中に入った。 スリッパに履き替えて、まずはキッチンに。 「やった~」 あたししかいないのに、思わず叫んじゃった。 白を基調とした壁と床。そして黒のシステムキッチンは、あたしの要望通りの対面式になってる。 コンロは3つあって、全部フラット。これ…IHなんだ。 「すご…」 使いこなせるのかな、あたし。 対面カウンターの奥は広々としたリビングにつながってる。横にあった和室も潰しちゃったんだ。広いリビングに天井までの窓が4枚。今はカーテンもついてないから、春先の午後の柔らかな陽射しが注ぎ込んでる。 1階はあとは、お風呂とトイレ。お風呂も、タイル式の古臭い洗い場だったのに、浴槽もシャワーも何もかも取り替えられてる。 廊下には収納ぶっ潰して作られた作り付けの本棚。あー、なんかけいちゃんらしいな。あたしの背より高い本棚を横目に見ながら、階段を上がった。 上も床は全部張り替えられてる。白いフローリングだから、家全体が明るいなあ。まだ、何もない3つの部屋を順に見て回って、ここにベッドかな、ここが将来の子ども部屋? なんて想像するだけで、楽しい。 ここで、けいちゃんと暮らすんだ…。 でもまだ実感が湧かないなあ。いちばん奥のいちばん広い部屋の床に、寝転がってあたしはいろんなことを想像してみる。 けいちゃんと食べる朝ごはん。 けいちゃんと行く買い物。 けいちゃんと眠るベッド。 うわうわうわ。なんか、にやけちゃう。どうしよう。自分の想像が気恥ずかしくて、フローリングの上をごろごろしてたら。 「千帆、何してんの?」 笑いを必死に堪えた顔で、けいちゃんが上からあたしを見下ろしてた。
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