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「け、けいちゃんっ」
何で、今、ここに!? 遅くなる、って言わなかったっけ。あたしは慌てて跳ね起きた。
「掃除機もワイパーも掛けてないのに…埃つくよ?」
すっごくけいちゃんらしい台詞を言いながら、けいちゃんはあたしの髪についてるだろう埃を払う。
「へ、平気…ていうか、けいちゃん何でここ…」
「うん、思ったより早く終わったから。千帆にメールしたんだけど」
あたしは慌てて置きっぱなしのカバンから、スマホを出す。ホントだ、けいちゃんからメール来てた。
「今読んだ…」
「うん。そうみたいだね」
ま、入れ違いにならなくて良かった。とけいちゃんはスマホを着てたスーツのポケットに
入れて、ぐるりとリビングを見回した。
「千帆を煩わせたくなくて、俺が内装殆ど決めちゃったけど…どう? 新しい家は? 気に入った?」
「うんっ!
あたしはけいちゃんにぎゅうって抱きついた。人の目を気にしないで、こんな風にけいちゃんに触れられるのが、すごくすごく嬉しい。他の人は当たり前に出来ることが、あたしたちには当たり前じゃなかったから。
「これからずっと一緒にいられるね」
「うん。――千帆、卒業おめでとう」
誰よりもそれを待ちわびてた人からの『おめでとう』に、心が震えた。変なの、あたし。式の時は泣かなかったのに。
じわりとあたしの瞳に浮かんだ雫を、けいちゃんは手のひらで拭う。
「いっぱいいっぱい我慢させて、ごめんな」
喉元にこみ上げた涙のせいで、声が出ない。あたしは、ぷるぷると首を左右に振って、頬に当てられたけいちゃんの手に、自分の手を重ねた。
けいちゃんは悪くない。だって、あたしが望んだことなんだもん。何があっても、絶対。
けいちゃんのこの手だけは離さない、って。
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