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「あれ、でもお引越しは?」
今度の週末に入籍しても、まだ一緒に暮らせる体制にはならないよね?
「まだ先になるね」
「え、じゃあ」
「とりあえず戸籍だけは、早く作って置いたほうがいいよ。だってさ、千帆。大学にいろんな書類出さなきゃいけないでしょ? 在籍中に名前が変わるより、入学手続きの時に変えちゃった方が良くない?」
なんかルンルンなあたしの気持ちとは、裏腹に、ひっじょ~に事務的な理由。とりあえず入籍って…。
「けいちゃんのばかぁ」
「ごめんごめん、情緒もへったくれもなくて。でも、新しい生活始まる時、最初から遠藤千帆として、会った方がスムーズだと思うんだ」
「遠藤千帆…やだ、けいちゃん、なんか、照れるっ」
あたしはけいちゃんの腕をばしばし叩く。テンションの上がり下がりの激しいあたしに、ついていけないと苦笑いして、けいちゃんは話を戻した。
「で? 希望ある?」
あたしはスマホのカレンダーを取り出した。今日が3月10日。大学の書類は3月いっぱいに提出なものが多かった気がする。ってことは、やっぱり今月にした方がいいのか。
「ホワイトデーだとありきたりだよねえ」
「忘れなくていいんじゃないの?」
「そうだけど…うーん。何か、あったっけ、あたしとけいちゃんの記念日的なの」
「俺の誕生日とか?」
「ああ、けいちゃんの誕生日かあ。いいねえ」
相槌を打ってから、あたしはある事実に思い至る。
「……あの」
「何?」
「ひっじょ~に聞きにくいんだけど、聞いてもイイ?」
「何聞かれるか想像ついたけど、何?」
心なしか、けいちゃんの声が尖ってる。うう、あたしだって、今更こんなこと聞きたくないよお。でも、聞かないと。聞くはいっときの恥、聞かぬは一生の恥。
「…けいちゃんの誕生日、いつだっけ?」
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