桜色の春

9/24
前へ
/24ページ
次へ
「あれ、でもお引越しは?」 今度の週末に入籍しても、まだ一緒に暮らせる体制にはならないよね? 「まだ先になるね」 「え、じゃあ」 「とりあえず戸籍だけは、早く作って置いたほうがいいよ。だってさ、千帆。大学にいろんな書類出さなきゃいけないでしょ? 在籍中に名前が変わるより、入学手続きの時に変えちゃった方が良くない?」 なんかルンルンなあたしの気持ちとは、裏腹に、ひっじょ~に事務的な理由。とりあえず入籍って…。 「けいちゃんのばかぁ」 「ごめんごめん、情緒もへったくれもなくて。でも、新しい生活始まる時、最初から遠藤千帆として、会った方がスムーズだと思うんだ」 「遠藤千帆…やだ、けいちゃん、なんか、照れるっ」 あたしはけいちゃんの腕をばしばし叩く。テンションの上がり下がりの激しいあたしに、ついていけないと苦笑いして、けいちゃんは話を戻した。 「で? 希望ある?」 あたしはスマホのカレンダーを取り出した。今日が3月10日。大学の書類は3月いっぱいに提出なものが多かった気がする。ってことは、やっぱり今月にした方がいいのか。 「ホワイトデーだとありきたりだよねえ」 「忘れなくていいんじゃないの?」 「そうだけど…うーん。何か、あったっけ、あたしとけいちゃんの記念日的なの」 「俺の誕生日とか?」 「ああ、けいちゃんの誕生日かあ。いいねえ」 相槌を打ってから、あたしはある事実に思い至る。 「……あの」 「何?」 「ひっじょ~に聞きにくいんだけど、聞いてもイイ?」 「何聞かれるか想像ついたけど、何?」 心なしか、けいちゃんの声が尖ってる。うう、あたしだって、今更こんなこと聞きたくないよお。でも、聞かないと。聞くはいっときの恥、聞かぬは一生の恥。 「…けいちゃんの誕生日、いつだっけ?」
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

347人が本棚に入れています
本棚に追加